コンタクトレンズ装用で目は“酸素不足”

目の角膜は涙液を介して空気中の酸素を取り入れることにより呼吸しています。目を閉じているときには、目を開いているときに比べ酸素の供給量は、3分の1に減少します。

コンタクトレンズ(CL)により角膜の表面が覆われると、涙液中の酸素が不足し、角膜は酸素不足に陥ります(図1)。したがって、角膜より大きいソフトコンタクトレンズ(SCL)をしている方が、角膜より小さいハードコンタクトレンズ(HCL)をしているよりも、角膜はより酸素不足の状態に陥っているということになります。酸素不足に陥った角膜は傷つきやすく、また感染症を起こしやすくなります。

HCLでは1回のまばたきでCLと角膜の間の涙液は約15~20%が交換され、SCLでは約1%です。つまり、HCLは涙液交換とレンズ素材の酸素透過性によりSCLより多くの酸素が供給されます。

図1.コンタクトレンズ装用で目は“酸素不足”

昔は「エベレスト山頂上」、今は「富士山頂上」

従来型の1~2年間使用するほとんどのSCLや今は市販されていない非酸素透過性のHCLそしてカラーCLを装用した状態の角膜の酸素濃度は、エベレスト山頂上と同じくらいの約6~8%の酸素濃度となります。毎日使い捨てSCL、連続装用SCL、2週間交換SCLそして酸素透過性HCLでは富士山頂上と同じくらいの約15%酸素濃度となります。平地の酸素濃度は21%ですので、どんなに酸素透過性が高い素材のレンズを使用しても富士山頂上より高い酸素濃度にはなりません。つまり、どんなに性能の良いレンズを装用しても角膜は常に酸素不足となっています(図2)。

図2.昔は「エベレスト山頂上」、今は「富士山頂上」「酸素透過性の悪いレンズ」
非酸素透過性HCL
従来型SCL(HEMA)
(1~2年使用タイプ)
カラーコンタクトレンズ「酸素透過性の良いレンズ」
ガス(酸素)透過性HCL
毎日使い捨てSCL、
2週間交換SCL

酸素不足による角膜への影響

非酸素透過性HCLをウサギ角膜に3日間連続装用した写真(図3)では、角膜は浮腫状となり、酸素不足を補うために角膜へ新生血管を認めます。また、その角膜の病理組織標本(PAS染色)(図4)では通常5~7層ある角膜上皮は1、2層となっています。走査電子顕微鏡(図5)では上皮は剥がれています。

図3.非酸素透過性HCLを3日連続装用したウサギ角膜

角膜の中央、下部は浮腫状となり、下部に新生血管がみられます。

図4.HCL連続装用ウサギ角膜病理組織標本(PAS染色)A:正常角膜上皮
角膜上皮は5~7層の上皮細胞(矢印)B:非酸素透過性HCL3日連続装用
角膜上皮は1、2層になっています(矢印)

図5.HCL連続装用ウサギ角膜の走査電子顕微鏡写真A:正常角膜上皮
正常の角膜上皮は平滑B:非酸素透過性HCL3日連続装用
角膜上皮は剥がれて凹凸があります

コンタクトレンズ眼障害の原因

酸素不足に陥った角膜は、傷つきやすく感染症も起こしやすくなり、最終的には眼障害を引き起こす可能性があります。眼障害の原因は、長時間装用による酸素不足以外に、感染、レンズの汚れ、機械的な刺激、アレルギー、ドライアイなどがあります(表1)。

さらに長時間装用、洗浄不良などレンズの使用方法に問題がある場合、レンズの汚れ・キズ・劣化・破損などCL自体に問題がある場合、定期検査などのフォローアップ不適切、説明指導・処方ケアが不適切な場合などがあります(図6~8)。 

表1.コンタクトレンズ眼障害の原因
  1. 酸素不足
  2. 感染
  3. レンズの汚れ
  4. 機械的な刺激
  5. アレルギー
  6. ドライアイ

図6.眼障害の原因(使用方法)
(平成14年度社団法人日本眼科医会CL眼障害アンケート調査より)

図7.眼障害の原因(コンタクトレンズ自体)
(平成14年度社団法人日本眼科医会CL眼障害アンケート調査より)

図8.眼障害の原因(処方・ケア)
(平成14年度社団法人日本眼科医会CL眼障害アンケート調査より)

眼障害を起こした人の6割の人が定期検査を受診していない

CL眼障害を起こした人の定期検査の受診状況を調べると、図9のように28.6%の人はまったく定期検査を受けていません。また、「月1回」、「3か月に1回」、「眼科医の指示とおり」に受診した人はそれぞれ5.8%、28.7%、5.6%となり、最低でも3か月に1回の定期検査を受けている人は、合わせて40.1%にしかすぎません。つまり、眼障害を起こした人のうち6割の人が適切に定期検査を受診していません。

図9.CL眼障害患者の定期検査受診状況
(平成14年度社団法人日本眼科医会CL眼障害アンケート調査より)

重症な眼障害の角膜浸潤・潰瘍が20%を超える!!

日本眼科医会が平成18年2月22日から平成19年2月26日に実施した調査では691件の報告があり、女性に多く(68.5%)、20代が40.7%、30代が25.6%、10代が21.5%でした。CL休止期間は3日以内が70.6%であり、CL眼障害が中等度以上と推測される4日以上は21.1%でした。また、両眼(41.1%)に発生している者が多くありました。重症な角膜潰瘍と角膜浸潤は従来の報告に比較して多く、20%以上であり、角膜上皮障害、アレルギー結膜炎(巨大乳頭結膜炎を含む)も多くありました(表2)。

表2.重症な眼障害の角膜浸潤・潰瘍が20%を超える

他覚的所見右眼左眼
角膜浸潤・角膜潰瘍20.4%22.9%
角膜上皮びらん・角膜上皮剥離16.8%16.2%
点状表層角膜症16.5%16.5%
アレルギー結膜炎(巨大乳頭結膜炎を含む)16.4%15.7%
結膜充血11.9%11.7%
角膜浮腫4.4%4.4%
角膜血管新生3.7%4.1%
虹彩炎・眼内炎1.5%1.1%
角膜内皮細胞障害0.5%0.6%
その他7.9%6.8%

(平成18年度日本眼科医会CL眼障害アンケート調査より)

10代では感染性角膜炎の96.3%の原因はCLの使用

感染性角膜炎とは重篤な角膜疾患で後遺症として失明などを生じる恐れのある病気ですが、日本眼感染症学会が平成15年に実施した感染性角膜炎全国サーベイランスによりますと、261例の感染性角膜炎(全国24施設)が報告されました。そのうちCL装用者は109例と、実に41.8%を占め、CL装用は最も高い危険因子でした。年齢分布は20代と60代にピークがあり、若年世代のピークのCL装用率は89.8%(10代のCL使用率:96.3%、20代のCL使用率:89.8%)でした(図10)。10代では感染性角膜炎の96.3%の原因がCLの使用であったことは憂慮すべきことであります。起炎菌では、2週間頻回交換SCLや従来型SCLといったケアを必要とするレンズではグラム陰性桿菌が多く、ディスポーザブルSCLはグラム陽性球菌が多くみられました。

CL装用が重篤な角膜感染症の誘因になることを再認識するとともに、CL装用者に対しては正しい指導をしていくことがきわめて重要です。

図10.年齢分布と感染時のCL使用
(感染性角膜炎全国サーベイランススタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス.
日眼会誌110:961-972, 2006. 図1より改変)

酸素不足にて角膜に新生血管

血管のない角膜は酸素不足が慢性的に続くと、酸素不足を補おうと角膜周辺部から角膜中央部に向かって血管が進入してきます。これは酸素不足の指標となります。SCLに多くみられ、睡眠時にSCLを連続装用する人に多く発症します(図11)。

図11.角膜新生血管
(宇津見眼科医院 宇津見義一先生提供)

 感染症(緑膿菌による角膜潰瘍)

CL装用によって生じる感染のほとんどはCLに付着した細菌、アカントアメーバ、真菌などによって起きます。CLは保存液やレンズケース内で増殖した細菌からも汚染されます。従来からの煮沸消毒法は有用ですが、現在は化学消毒法が主流となっていることが、CLによる感染症が増加している大きな要因であります。煮沸消毒法は消毒効果として化学消毒法より有用であり、レンズケース自体への消毒も同様です。しかし、一液で洗浄、すすぎ、消毒、保存を行う多目的溶剤(MPS:マルチパーパスソリューション)は消毒効果の弱いため注意が必要です。特に多目的溶剤(MPS)はこすり洗いをしないと薬剤の消毒効果が非常に少なくなります。

CLの重篤な合併症である角膜潰瘍(図12)は、治っても角膜の混濁による著しい視力障害や不正乱視が残り、角膜移植が必要となるばかりか、角膜が薄くなりすぎて移植が困難な場合もあるため注意を要します。特に消毒効果の低い化学消毒法や、不適切な使用により増加しているアカントアメーバ角膜炎(図13)は初期診断が困難であり、治療にも抵抗し重篤になる場合が多いのです。消毒法の改善やケア方法の徹底した指導が望まれています。

図12.緑膿菌による角膜潰瘍
左:初診時(角膜潰瘍)、中央:治癒時(角膜瘢痕)矯正視力0.02、右:角膜移植術後矯正視力0.6
(大阪大学大学院医学研究科視覚情報制御学 前田直之教授提供)

12歳の男性で2週間交換SCLを装用。角膜潰瘍にて入院加療し治癒しましたが、角膜混濁が残った(矯正視力0.02)ために角膜移植術を施行したところ、矯正視力0.6まで改善しました。

図13.近視矯正用のオルソケラトロジーレンズによるアカントアメーバ角膜炎
(大阪大学大学院医学研究科視覚情報制御学 前田直之教授提供)

14歳、男性。治療後3か月。3年間オルソケラトロジーレンズを装用し、保存には生理食塩水を使用していました。

図14.インターネット販売で診察を受けずに生じた角膜潰瘍と眼内炎
(谷藤眼科医院 谷藤泰寛先生提供)

38歳、男性。1週間連続装用使い捨てSCLを使用、数年来の異物感を自覚。
2年間前からインターネット販売で診察を受けずにレンズを購入していました。

HCLは充血しやすい(3時~9時ステイニング)

HCLはSCLに比較して充血しやすいことが少なくありません。3時~9時ステイニングといって、時計でいうと角膜上皮の3時と9時方向の涙が乾くことと、レンズのエッジ(端)が刺激することで、その部位に一致した角膜や結膜にキズが生じたり、結膜が充血しやすくなります(図15)。HCLのフィッティングの改善や人工涙液やヒアルロン酸によるドライアイの治療にて治療します。

また、SCLで角膜上方に点状または線状の角膜上皮の障害(SEAL)を生じる場合があります(図16)。周辺角膜とSCLデザインとの機械的刺激によって生じることがありますが、SCLのフィッティングの改善で治ります。

図15.3時~9時ステイニング
(宇津見眼科医院 宇津見義一先生提供)

HCLでは3時と9時方向の涙がドライアップすることとレンズエッジの刺激により、その部位に一致した角膜や結膜のキズや、結膜が充血を呈する状態をいいます(矢印)。

図16.SCLによる角膜の線上のキズ(SEAL)
(ウエダ眼科 植田喜一先生提供)

周辺角膜とSCLのデザインとの機械的刺激によって生じことがありますが、SCLのフィッティングの改善で治ります。

アレルギー(レンズの汚れ、ケア用品)

CLの汚れの成分は蛋白質、脂質であり、細菌も含まれています。特にSCLはHCLより汚れが蓄積しやすく、アレルギー結膜炎が多くみられます。それが重症化すると巨大乳頭結膜炎(図17)となります。上まぶたの裏側の眼瞼結膜に多く、直径が1.0 mm以上のぶつぶつ(乳頭)ができます。2週間交換SCLや数か月あるいは1~2年使用するSCLに多くみられます。原因は汚れと摩擦による刺激といわれていますが、2週間交換SCLにて生じた場合に、1日使い捨てSCLに変更すると改善する場合も多く、ケア用品によるアレルギー反応も関与しています。

図17.レンズの汚れによるアレルギー巨大乳頭結膜炎
(宇津見眼科医院 宇津見義一先生提供)

上眼瞼結膜に多く、直径1.0 mm以上の乳頭を形成。
CLの汚れや機械的な摩擦で生じるアレルギー反応。
SCLに多い。レンズのこすり洗いが予防に重要です。

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